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公開日: 2024年2月5日

様々な孤立の解消と次の時代の住まい

明治大学名誉教授・園田眞理子先生へのインタビュー

GOOD GOOD NEIGHBORSが生まれたのは、当時、明治大学で教鞭をとられ、高齢者住宅や住計画・政策を専門とする園田眞理子先生との出会いがあったからです。地域に点在する空き家を、住まいのセーフティネットとして活用するための共同研究を明治大学園田研究室と実施し、そこで得られたさまざまな知見をもとにしてGOOD GOOD NEIGHBORSが生まれました。この激動する時代において、住まいという概念を根本的に見直し、時代の変化に対応した新しいモデルをつくっていかなければいけないと、園田先生と話す度に思いが強くなっていきます。

戦後の住宅不足から

連:園田先生は建築計画や住宅政策がご専門ですが、現在の日本における住まいがどんな状況なのか、まずは大局的な視点からうかがいたいと思います。

園田:遠回りかもしれませんが、まずは1945年8月15日を起点に話をはじめましょう。終戦当時、日本全体で国民の4人に1人は住む家がありませんでした。圧倒的に箱が足りない状態です。とにかく質より量で建物を増やさなければならない状況が30年間近くつづきました。1973年、ようやく必要とされる住宅数と、実際に立っている住宅数が見合います。そこではじめて数ではなく質の問題が話題に上がるようになったわけです。そこから20世紀のあいだは、地道に質を上げていこうと、公営住宅でも大きめの2DKや3DKを核家族に向けてたくさんつくっていきました。しかし、税金が投入される公営住宅は徹底してファミリー向けで、単身者向けは全くつくらなかったんです。
一方、連さん達が扱ってきた木賃アパートですが、木賃は住宅政策からすると戦後長らく範疇の外でした。それこそ地元の不動産屋や、戦争で家が燃えてしまった民間オーナーたちが、さまざまな事情で都会に出てきた単身者向けに、その受け皿として木賃アパートを建てていったのです。そうしてアナーキーに出来上がったのが、いわゆる木賃ベルト地帯です。当時の旺盛な民力が、住宅政策の無策に取って代わったのです。ただ、これも1970年代半ばまでの状況です。

木賃ベルト地帯(制作:CHAr)

バブルの混乱と自治体の活躍

園田:その後、民の側ではいわゆるワンルームマンションが登場します。東京や大阪などの都市部ではRCで建てられるものも多く、投資用としての側面が生じます。それが1990年代直前にはじまるバブル経済でおかしくなっていくわけです。投資対象としてのマンションがどんどん値上がりし、都心はふつうの人では住めないような場所になっていきました。木賃ベルト地帯や都心に残されていた単身者向け住宅も、尽く地上げの対象になり、追い出される人も多くいました。今ではあまり知られてないですが、当時の自治体はそうした単身者の家探しを手伝ったり、家賃上昇分の補助をしたり、住まいの支援には熱心でした。80年代後半から90年代前半は、住まいや単身者向けの住宅問題が国家的課題になった珍しい時期だったと言えます。バブルは1990年になった途端はじけたけれど、住宅や不動産は90年代半ばくらいまではそうした話題が継続していました。

終わらない不況と住まいの問題

園田:97-98年頃からは住宅価格も一気に下がりはじめ、今につながる家余り現象はその頃からはじまります。当時は政治的には大きな問題にはなりませんでしたが、そこに現われたのがいわゆる就職氷河期世代です。当初はニートやフリーター、パラサイト等と揶揄する向きもありましたが、実はバブル崩壊後に、ふつうに働いたり、結婚したりすることが難しい時代がやってきた。そうした人たちがいま50代になりつつある。住まいに問題を抱える層としては、そこが塊としてあると思います。同じ時期でもうひとつ象徴的なのは、共働き世帯が専業主婦世帯を上回ったことです。共働きのためには立地の利便性が優先されるので、郊外用のファミリータイプが行き場を失い、郊外化の動きも逆転しました。そこから先は若い皆さんも知っての通り、激動の時代ですね。2008年のリーマンショック。日本は比較的影響が少なかったと言われていますが、そのときに氷河期世代の非正規雇用の人たちは雇い止めにあいました。職と住まいは関係が深いので、職を失うと同時に住まいを失ってしまう。ほかにもシングルマザーの増加や8050問題など課題は山積みです。団塊世代がリタイアをはじめた2010年前後から、問題がとくに顕在化してきた印象です。

空き家問題の現在

連:大きな視点から戦後日本の住まいの状況について理解することができました。コロナ禍もありましたが、近年の状況をどうご覧になっていますか?

園田:空き家問題が当たり前に語られるようになりましたが、ひと昔前とは少し様相が変わっているように感じています。実は空き家の多くを賃貸アパートの住戸が占めているのですが、コロナ禍を挟んでオーナーの世代交代が一気に進んでしまいました。10年ほど前はまだアパート経営を自分ではじめた世代が残っていましたが、今の所有者の多くは、親や祖父母がなぜこんなものを残したのかまったくわからなくなっているのではないでしょうか。そうした背景の空き家が増えている印象です。また、住まい手側もがらりと変わりましたね。90年頃までは4人家族が標準でしたが、2000年以降減っていき、いま一番多いのは単身者です。東京都では、総世帯の半分以上が単身世帯です。
こうした状況に対して、公的な住宅政策はまったく対応できていません。すくなくともハードしか扱わない国土交通省には難しいでしょうし、厚生労働省も住まいにはノータッチです。生活保護の住宅扶助しか持ち合わせていない。だから国策としては担い手がいないんですよ。いわゆる木賃・木密問題にも都市部の自治体が90年代半ばまでは熱く取り組んでいましたが、当時の担当者たちはもうリタイアしていて、そのDNAは残ってないでしょう。だから問題が放置されている。そんな現状でしょうか。

単身世帯の推移(総務省『国勢調査』より作成)

コロナ禍で明らかになったこと

連:ありがとうございます。そうした大きな流れのなかで、園田先生とは「モクチンレシピ地域善隣事業版」(*)など、一緒に住まいの問題について取り組ませていただきました。いま当時を振り返っていかがですか?

園田:連さんたちと地域善隣事業に取り組んでいたのは2018-2019年で、その後にコロナ禍が来てしまって、時代のほうが一気に先に進んでしまった印象です。孤立や住まいの問題が、コロナ禍を通して状況が劇的変わってしまいました。なんとか覆い隠していた大問題が一気に露呈してしまった。
コロナ禍がわれわれに教えてくれたことは、オンラインで人と人は簡単につながれるようになったこと、他方でそれを支えるにはエッセンシャルワークの存在が不可欠であることです。安心して食べて、寝て、毎日新鮮な空気を吸う。それはオンラインでは絶対に得られない。自分の身近な範囲で、必要不可欠なエッセンシャルワークが機能していてはじめて、オンラインは成り立つのです。
だからこそ、地域のなかで自分たちができることを丁寧につなぎ合わせることが重要だと思っています。身近な環境を仲間で協力して快適にしていく。それを実現するのは簡単ではないけれど、「一人ずつ」や「一つずつ」が鍵かもしれません。それぞれが得意なものを出し合って編み合わせていくと、快適な環境が得られて経済的にも循環していく。そうしたストーリーを目指すべきだと思います。

地域善隣事業による空き家活用イメージ

物件所有者・不動産会社の孤立

連:身近なところから連携していくことが大事ということですね。日本はどうもお上に頼るところがありますが、福祉と住まいの連携や、孤立化や単身者への対応など、戦後日本の住政策が対応できなかったことによって悪循環に陥っています。国のレベルでやるべきことと、自分たちの足元からできること、両者をどう捉えて考えていけばよいでしょうか。

園田:まず、すぐに国に頼っちゃうのはよくないと私も思います。国は国で頑張ってほしいけれど、原則として住宅や生活は自分たちの問題であり地域の問題です。地域が変わればいろいろな可能性がありますよ。自分たちの地元にあるアパートや建物に、自分たちの身近にいる人たちが安心して住めること。まずはこれを素直に解けばいいのだと思います。あまり難しく考える必要はない。これがまず一点。
もう一つは、住み手側の孤立はもちろん大問題ですが、今回の「グッドグッドネイバーズ」で連さんたちにもっと強調してもらいたいことは、実は住宅・アパートのオーナーさん、不動産屋さんも孤立している、ということです。“そっち側の孤立の問題”もぜひアピールしてほしい。不動産屋さんが地域で孤立していたらいい地域にならないですよ。オーナーさんも相続したもののどうしたらいいかわからず、孤立していると思う。自分の生活すらその地域に根付いていないオーナーさんも多いのではないでしょうか。

連:「モクチンレシピ」や「パートナーズ」といったサービスで今までお付き合いしてきた不動産会社や物件オーナーさんたちを見ていても、建物に愛着をもっていたり、社会貢献や地域貢献に関心が高かったり、問題意識をもっている人は一定数います。けれどそれが自覚化や言語化されていなかったり、あるいは既存の不動産常識のなかでモヤモヤを抱えている人も多い印象です。「グッドグッドネイバーズ」では、そうしたモヤモヤを抱えた人たちに向けて、「利益を最大化する賃貸経営だけではないやり方が実はあるんだよ」というメッセージを出していきたいと思っています。

園田:とても重要ですね。具体的な場所で、オーナーさんが持っている物件と、その周辺をあずかっている不動産屋さんが、そこを居心地のいい場所に変えていけばいいわけです。近くで安くて美味しいものを食べたいよねということであれば、たとえば地元の食堂や食材提供者と連携したり。ほかにも掃除をしてくれる人や、設備メンテナンスをしてくれる人も必要になるでしょう。まさにエッセンシャルワークを発掘して、つないでいくことが必要です。

ZOOMでインタビューを実施。下中央が園田先生

地域のための投資とリターン

園田:そうしたときに、どうしても必要となるのはお金です。世知辛いことを言うようですが、場所や環境をよくして将来を魅力的にするためには、どうしても初期投資(先行投資)が必要です。それをいちオーナーやいち不動産屋に担わせるのか、という問題。クラウドファンディングはブームではありますが、一方で、なんで日本人は自分の地元に投資しないのかと私はいつも思います。ちょっとずつ自分の地元をよくするために投資をして、金銭だけではないリターンを得る。そうした投資とリターンの仕組みをつくっていく必要がありますね。
地域ファンドのように、少しずつお金を出し合うことができれば、ある程度まとまったお金になる。それを元手に、今年はAさんのアパートを改修して、リターンが出れば来年はBさんのアパート、というように順番にやっていけば連鎖していくし、経済的にも成り立つと思う。日本に昔からあった「頼母子講」や「結」はそうした投資とリターンの仕組みでもありました。地域のコミュニティは昔からそう維持されてきたのです。だからこそ、みんなで少しずつお金を出し合って、それを元手に初期投資にする。それをいいものにできれば必ずリターンがあるから、大きな利益は出なくても維持はできる。そうすれば2-3年目につながっていく。経済的な理屈としては通っていると思いますが、どうですか(笑)。

連:集落のように地縁をベースにするのは今の時代では難しいと思いますが、コミュニティのメンバーシップと考えれば、空間的には点在型でも可能性はあると思います。逆に点在していることによる機能や役割が出てくると面白いですね。そうでないと、たんに「町内会に入ってください」ということになりかねないので、ネットワーク型の有機的な地域コミュニティとして捉えたいです。「グッドグッドネイバーズ」をそうした枠組みをつくるきっかけや母体としても考えたいと思っています。さまざまな観点から「宿題」をいただいたので、これから時間をかけて考えていきたいと思います(笑)。最後に、不動産屋さんや物件オーナーに向けてメッセージをいただけますか。

園田:「不動産屋さんもオーナーさんも実はお困りでしょう!」ということに尽きますね。みなさん、本当はお困りだと思うけれど、ご自分だけで解決できる部分は少ないので、いろいろな人と少しずつ共有して、ケンカもしながら仲良くすると、意外な答えが見えてきますよ。

連:「グッドグッドネイバーズ」でも実践しながら生まれる成果をもとにさらに発展させていきたいと思います。本日はありがとうございました。

園田眞理子(そのだまりこ):明治大学名誉教授
千葉大学・大学院修了後、民間の都市開発・建築コンサルタント会社、財団法人の建築研究所を経て、明治大学理工学部建築学科にて研究・教育に従事する。主な専門は、高齢社会・人口減少社会に対応した住宅計画・住宅政策。

*「地域善隣事業」とは、高齢者住宅財団が低所得高齢者の「住まい確保」と「生活支援」を同時に実施することで地域居住をサポートするモデル事業。2018年〜2019年にわたり、モクチン企画(現CHar)は明治大学園田眞理子研究室とともに、モクチンレシピを応用した「地域善隣版モクチンレシピ」の開発と、それを普及していくための事業スキームの構築を、支援団体へのヒアリングなどを重ね検討してきた。
「地域善隣版モクチンメソッドの開発・実装 生活困窮者の住まいの質的改善を目指して」

<論文>
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbunjisen/46/0/46_1824/_article/-char/ja/
<報告書>
http://www.jusoken.or.jp/pdf/kenkyu1824.pdf