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公開日: 2024年2月5日
GOOD GOOD NEIGHBORSを構想する際に、大きな刺激となったプロジェクト「モデルハウス」を生み出したNPO法人HELLOlifeの代表・塩山諒さんにインタビューしました。塩山さんとの対話を通して、「住まい」というものが単なる箱ではなく、人を繋ぎ成長させ、目まぐるしく変化する時代に私たち一人ひとりを支える最も基礎的なインフラであることを再認識しました。住まいというインフラを地域全体で支え創出していくことが、孤立化する若者を救い、次の未来をつくっていくための大きな力になるということを教えていただきました。
連:まずは「ハローライフ」の取り組みからうかがえますか。どのような組織なのでしょうか?
塩山:「ハローライフ」は、この時代をどう生き抜き、働き、住まうかをテーマに、大阪を中心に活動するNPOです。全国どの地域においても、セーフティネットはやはり課題を抱えています。公共サービスを利用する人たちには、孤立や孤独、格差などの問題を抱えた人が多くいます。それらに対する行政のアプローチとして、生活困窮者に対する自立支援事業などさまざまありますが、いかんせん縦割りで横串を刺すことが難しい。一方で、非正規労働やニート状態・引きこもりなどは、課題が複雑・困難であることから民間企業も取り組みにくい。社会的孤立などで支援を求める若者にとっては、受けたいサービスがなかなかないのが実情です。そこに対して、新しいサービスを発明していくことをミッションに掲げるチームがハローライフです。
連:無業の若者がメインターゲットということでしょうか。課題としてはどのようなことがありますか?
塩山:社会には、たとえば学生時代の様々な経験から引きこもってしまい、誰にも相談できず、自助努力だけでは社会で生きていくことがとても困難な人たちが存在します。にもかかわらず、共助・公助はどんどん少なくなってきているので、支援が必要な若者は実数としてかなり多くなってきている印象です。そんな若者たちに対して、公助や共助ではリーチできていない問題の解決を模索しています。
写真:ハローライフのウェブサイト(提供:HELLOlife)
連:「ハローライフ」では今お話しいただいた課題に対してさまざまな事業を実践されていますが、軸としては就労支援がありますね。具体的なサービスや代表的な取り組みについて教えていただけますか。
塩山:「モデルハウス」というサービスがあります。受益者数が多いわけではないですが、「ハローライフ」が力を入れてきた、縦割りに横串を刺していくことがよく現れたプロジェクトです。大阪府の雇用労働部局だけではなく、住宅部局の皆さんと協働して進めることができました。
連:私たちCHArも改修の部分で関わらせていただきました、とても刺激的な体験でした。どのようなプロジェクトか具体的に教えていただけますか?
塩山:初年度は、大阪府の公営住宅の空き住戸11部屋を活用して、様々な理由で無業状態にある若者がそこに入居し、生活しながら就労支援を受けていくというプロジェクトです。DIYで自分たちの部屋をつくりあげていきながら、地域と一緒に祭りを盛り上げたり、自治体活動にも参加してもらいました。とくに地域の高齢者の皆さんには喜んでいただけました。一石三鳥ではないですが、若者が仕事のサポート・支援を受け、自分の住まいを獲得しながら、エリア全体の活性化にもつながっていく。結果的には2年間で12名の入居があり、うち8名が就職していきました。これまでにもっとも反響の大きかったプロジェクトのひとつが、このモデルハウスだと思います。
住宅つき就職支援プロジェクトMODEL HOUSE(提供:HELLOlife)
連:直接住まいを扱うことは初めてだったかと思いますが、何かきっかけはありましたか?モデルハウスを構想するに至る経緯について教えてください。
塩山:2010年頃に、大阪府の雇用政策を考えるチームと仕事をする機会がありました。2011年に「大阪ニート100人会議」という、大阪府内のニート状態の若者を100人集めて意見集約するイベントでした。これをきっかけに若者の置かれた状況を言語化していきました。若者たちは今何に困っているのか、どんな支援があれば働きやすくなるのか。働く、住む、家庭をつくる、それらはすべて手段でしかなく、最終的にはどんな生き方をしたいのか、という価値観が重要だという結論に至りました。とはいいつつも、現状では学校を中退してしまっていたり、人間関係がうまくいかず仕事から離れていたり、社会の中で普通と呼ばれるレールから外れてしまった若者が多い。彼らにとって必要なものは、仕事だけではありません。それからも様々な若者と触れ合うなかで、若者当事者たちから住まいの話が上がることもあったんですね。ベーシックインカム論なども若者の間で話題にあがることもあり、衣食住の支援を行政にしてほしいという意見が多かった。いっぽう大阪府としては、1万数千といわれる府営住宅の空き家ストックが問題になっていました。そこで2013年頃に、府営住宅のストックを、無業状態の単身の若者に対して、ベーシックインカム的に無償で貸し出しできないか、大阪府の住宅セクションに申し入れに行きました。それが最初ですね。
連:住まいをベーシックインカム的に整備しようとする発想ですね。行政がそれを直接的に担うのは難しいので、塩山さんたちが事業として立ち上げたと。実際にはどのような仕組みになっているのか、詳しく教えてください。
塩山: 15-39歳の無業期間や非正規を繰り返す若者を対象としています。最初の2017-2018は日本財団からの助成期間でもあったので、まさにベーシックインカム的に無償で入居してもらうスキームになりました。30名ほどの応募のなかから面談を重ねて10名の入居者を決定しました。公営住宅の状態があまりよくなかったので、基本的な工事は業者を入れましたが、その後は床や壁、家具などを若者たちが自らつくっていくワークショップを重ねていきました。CHArさんにはこのための仕組みづくりをしていただきましたね。部屋をつくり、自治体活動にも参加し、地域との関係もつくっていく。そのなかで、あらためてどんな生き方や働き方をしたいかを言葉にしていく。そして四條畷市の市内や団地から通える仕事先を探し、アルバイトからはじめていく。入居後3カ月もすると、部屋もきれいになっているし、自治体の皆さんとは仲良くしているし、仕事もはじめている。半年もすると顔つきが変わっていきました。
部屋のDIYの様子(左)と改修後の室内。CHArで改修のためのワークショップのプログラムや改修メニューを作成した(提供:HELLOlife)
塩山:ある時、視察に訪れた有識者の方がそれを見て言ったことが印象的でした。「モデルハウスはソーシャルインパクト以上に当事者インパクトが非常に強い」と。顔つきが一国一城の主というか、実家にいた頃と比べるとはるかにたくましくなる。大阪の地元のおじさんやおばさんたちに揉まれるなかでコミュニケーション能力も上がっていくし、自分の家をつくることは力仕事でもあるので、身体も鍛えられる。アドバイザーの先生方からも、「若者が成長していく過程に価値がある」と言っていただけたことは印象的でした。
連:一次的なシェルターとしてはもちろんハードは必要ですが、次に踏み出すためのコミュニティや、友人関係の築き方なども、ハローライフでは積極的にプログラムを組み、試行錯誤をされていました。ソフトの部分があるからこそ、一人ひとりのステップアップにつながる。これからはそうした次元で住まいを捉えていく必要がありますね。
写真:住民同士の交流の様子(提供:HELLOlife)
連:事業のスキームとしては、ハローライフが物件を借り上げて、いろいろな協力者を集めるというものですよね。資金力のある団体が借り上げて、一定期間運営していくのは、いろいろな人がコラボレーションするためにもよいかたちだと思いますし、一般的なオーナーさんにとってもメリットがあります。こうしたスキームについて、可能性や課題感はありますか?
塩山:借り上げは大家さん側にメリットが大きいのは確かです。いっぽう借り手側にとってはコストのリスクもあるので、本当はインセンティブ設定ができればありがたいところです。借り手が決まり家賃が入ったら大家さんにも賃料が入るような、もう少し柔軟な仕組みにできたらより望ましいとは思います。それは公営住宅の空き住戸だけでなく、民間の空き家でも同じことです。モデルハウスは前例のない試みでもあったので、行政側もリスクを感じていたことと思います。できるだけリスクをハローライフ側で引き受けるためにも、借り上げを選択せざるを得ませんでした。しかし今後いろいろなNPOが参入してくることを考えると、互いにリスクを取り合える仕組みは必要だと思います。
連:引きこもりやニートに対する偏見から、プロジェクト自体をネガティブに感じてしまう人もいるかと思います。それは行政だけでなく、地域側にもあるかもしれません。そうした視線に対して、ハローライフとして気をつけたことはありましたか?若者も地域も互いに気持ちよく過ごせる状況をどうつくるのか。そのための工夫についてお聞かせください。
塩山:就労支援であり住宅支援でもあるこの事業はどこが管轄するのかという行政の意見も、働いていない若者を受け入れることで地域が困惑するんじゃないかという地域の思いも、それぞれあったかと思います。ですが、僕たちがサポートしている若者はどんな若者なのか、それを丁寧に説明をしていくしかありませんでした。とくに地域の人々に対しては、企画書を用意しても読んでもらえないので、しっかりface to faceで話をしたり実際に若者に会ってもらったりしながら理解を広めていきました。
連:住民側や行政側の変化は感じましたか?
塩山:高齢化している団地なので、やはり若者が10名入ってきて、月一回の自治会活動に参加するようになると、ドロ上げや草むしりのような力仕事ははかどります。すると街もきれいになるし活気づいてくる。最初は否定的な人が多くても、途中から「ありがとう」「うれしい」「もっとおってや」といった言葉が聞こえてきました。地域の状況は入居してから変わっていきましたね。行政側にとっても。前例がないことなので、協働できたこと自体が本当にありがたかったですね。若者が変容していき、地域からも歓迎されてくると、徐々に行政内でも理解がより広がっていったように思います。新聞やテレビの報道もあるなかで、実際現場で起きていることの価値を目の当たりにすることの影響も大きかったです。
連:あらためてプロジェクトのなかでハローライフが果たした役割はなんだったとお考えですか?
塩山:そうですね……。みんなが「こうなったらいいな」と思っていることの、一番いいところを守りながら、それを実現するために汗をかいたこと。ビジョンをもちつつ動き回ったこと。それがハローライフの役割でした。若者の声を聞いて、「住まいを」と思った。そして、行政も空き家をなんとかしたいと考えていた。しかしそこにそのまま若者が入っていくとリスクが生まれる。そのリスクをどうすれば低減できるか、いろいろなリサーチをしたり企画書をつくりながら丁寧に考えていったことでしょうか。ネガティブチェックは無視できないので、「大丈夫ですよ」と口で言うだけではなくて、問題が起きた時の対処方法をロジカルに用意しておくこと。黒子ですが、そこが大事でした。若者と地域・行政、両者の思いの裏側にある不安を解消するために、必要なリサーチや資料づくりをして、しっかりと言語化しておくこと。
連:関係性のデザインを丁寧にやっていくということですね。
塩山:そうです。自ら汗をかくことをいとわず、それを泥臭くできるかがとても大事でした。
ZOOMでインタビューを実施。下中央が塩山氏
連:今後の展開として考えていることはありますか?
塩山:モデルハウスは全国の自治体、NPO、企業の皆さんから多くの視察がありました。どの自治体も公営住宅の空き住戸で悩んでいたり、ニーズが高いこともわかってきました。今後は、大阪のこの一つの事例をベースにしながら、汎用していけるようにいい部分を抽出して共有化して、中間支援的な動きができないか考えています。これまでたくさん汗をかいてきたことの知見をノウハウ化やマニュアル化して、次に活かせるようにしたいです。
連:こちらはハード寄りの試みなので、塩山さんたちのソフト面の活動とはいろいろコラボレーションできそうだなと感じています。
連:最後に、不動産オーナーや相続で土地を持ってしまった人が、日本には多いと思います。彼らは自分の土地や建物をどう活かしたらいいか悩んでいます。そうした方々に向けてメッセージをいただけますか?
塩山:僕も今39歳ですが、自分が生まれ育った時代は実家には鍵もなくて、祖父や祖母の田舎なんて本当に百姓の暮らしをしていました。この100年くらいで生活はがらりと変わったわけです。そのなかで、時代ごとにさまざまな住宅政策が取り組まれてきました。移り変わりのきっかけは災害だけではなく、コロナや戦争など、いつ起こるか誰にも予測できません。そう考えると、モデルなんてあってないようなものなので、これからの時代は、それぞれの立場から新しい試みをどんどん立ち上げていくような、共創時代になっていくように感じています。だからこそ何も失うものはないという気持ちで、ネガティブなことは一度横において、リスクを背負って、挑戦していってほしいと思います。
連:「グッドグッドネイバーズ」もそうした力の一つになれるよう、仕組みとして大切に育てていければと思います。ありがとうございました。